植物由来の油を原料にした洗浄液の生産・販売を手がけるインフィニティ(東京都渋谷区)が、中国市場で存在感を高めている。中国では環境規制の強化に加え、中東情勢の悪化による石油由来製品の供給不安が意識される中、「環境負荷の軽減」と「安定供給」を両立できる強みで同社の洗浄液に引き合いが高まっている。インフィニティのSAFE CARE事業部・販売部マネジャーの長谷川豊氏は「顧客のあらゆる汚れの要望に対応できる」と力を込める。
インフィニティの長谷川豊マネジャー(NNA撮影)
同社の洗浄液は北米から調達したトウモロコシや大豆などの植物原料をベースに生産しており、石油系物質を一切使用しない。従来の有機溶剤と比べて人体や環境への負荷を抑えられる点が特徴だ。金属やステンレス、塗装面、ゴム・プラスチックなどの材質の表面を腐食・劣化させにくく、生分解性であるため排水による環境への影響もほぼ発生しない。
植物性洗浄液のラインアップは30種類以上。油汚れや塗料、接着剤など幅広い用途に対応しており、顧客ごとに異なる汚れの要望に最適な製品を提案できる点も強みだ。工業部門や自動車用のほか、飲食店向けやハウスクリーニング、海洋・船舶関連などの業界向けに、数多くの植物性洗剤を展開してきた。「ファミリーケア」のブランド名で、家庭用の洗濯洗剤や食器用洗剤も展開している。
茨城工場の充填ライン(インフィニティ提供)
インフィニティの洗浄液は、原料を石油に依存しないことで中東情勢の影響を受けないため、安定した供給が可能。今回の中東危機に限らず、将来的な地政学的リスクを踏まえても、これまではコストの面から利用を見送られることもあったが、足元では需要の高まりを受け、茨城工場の生産能力を従来比約2倍に引き上げた。
中国では2009年から主に工業向けの輸入販売を手がけ、19年以降は農業分野への展開を本格化。中国現地の代理店などを通じて導入が進み、用途の裾野が広がっている。
中国の製造業では環境対応の要請が一段と強まっている。インフィニティの植物性洗浄液を扱う機械系商社、上海椿本商貿の平田謙介設備営業部長は「製造業の揮発性有機化合物(VOC)規制は年々厳格化し、従来の有機溶剤を使い続けることが難しくなっている」と指摘する。違反時には罰金や営業停止といった厳しい措置が科されるため、企業は代替製品への切り替えを迫られている状況だ。
上海椿本商貿の平田謙介設備営業部長(NNA撮影)
上海椿本商貿の平田謙介設備営業部長(右から2番目)と営業担当メンバー(NNA撮影)
椿本商貿が洗浄液の取り扱いを始めたのは17年。環境規制強化の流れを背景に「大きなチャンス」と判断し、本格的に営業を始めた。
初めて採用されたのは江蘇省蘇州市にある日系の電動工具部品メーカーだ。従来は作業員がアセトンを用いて、手作業で油汚れを洗浄していたという。アセトンは危険性が高く揮発しやすいため、専用設備や厳格な管理が必要だった。
平田氏は「石油系溶剤と比べて(植物性洗浄液は)引火や爆発のリスクがなく、揮発もしにくい。現場は保管がしやすくなり、何より作業員の健康面で安心感がある」と説明する。アセトンを使った作業時にはマスクや手袋の着用が必須で、定期的に健康診断を受ける必要もある。
導入に際してはサンプルテストを実施し、効果を確認したうえで採用を判断してもらうケースが多く、顧客が導入後に不安なく使用できる点も強みの1つだ。現在は塗装や印刷、粘着剤、金型や機械部品の洗浄など幅広い工程で採用が広がっている。
ハウスフィルムの洗浄前後(左が洗浄前、右が洗浄後)。透明性が回復し、日射量が向上(インフィニティ提供)
農業分野でも新たな需要が見え始めている。中国で施設園芸向け資材等を販売する他喜龍希愛(上海)貿易は、日本の本社「タキロンシーアイ株式会社」で製造している農業用ハウスフィルムの販売網を利用して、25年からインフィニティの植物性洗浄液の本格展開に乗り出した。
他喜龍希愛(上海)貿易の董事総経理である境和晃氏は、汚れによるハウスフィルムの透明性低下が課題だったと話す。中国では黄砂や煤煙に加え、湿度が高い南部地域では、コケが発生しやすい。ほこりやコケが付着すると光を遮り、作物の生育や収穫に影響する。本来3~5年は使用可能な高機能フィルムでも性能を十分に発揮できないケースがある。境氏はフィルムの効果を維持する手段として、インフィニティの植物性洗浄液に着目した。
一般的にフィルムの透過率が1%向上すると収穫率も1%上がるといわれる中、境氏は「作物や土壌に悪影響を与えず汚れを除去できる洗浄剤は、間違いなく必要」として、需要の拡大に期待を示す。ハウスフィルムの洗浄は従来、人手による水洗浄が中心だった。洗浄によってタキロンシーアイ製フィルムの本来の透明性を回復できれば生産者の収益性向上にも繋がる。境氏はインフィニティの環境対応タイプの洗浄液導入について「買い手と売り手の双方にメリットがあり、取り扱う当社のイメージアップにもつながる」と、今後の展開に自信を見せた。
もっとも、導入にはコスト面の検証が欠かせない。水洗浄との比較で効果を見極めながら、最適な運用方法を確立することが普及の鍵となる。
他喜龍希愛(上海)貿易の境和晃董事総経理(NNA撮影)
他喜龍希愛(上海)貿易の境和晃董事総経理(左から2番目)と営業担当メンバー(NNA撮影)
インフィニティは農業向けに、植物性洗浄液とドローンを組み合わせた活用も検討中だ。ハウスフィルムの洗浄は高さ数メートルの高所作業となり、危険を伴う。農業用ハウスの清掃には多くの人手を必要とし、人件費の負担も大きい。スマート化によって安全性と作業効率を高められれば、高齢化が進む農業現場での需要開拓につながるとの見方だ。
中国で工業用途を中心に支持されてきた植物性洗浄液は、農業分野でも課題解決の手段として評価され始めている。インフィニティは現場のニーズを捉えながら、中国市場での用途拡大を着実に進めていく考えだ。
